踊れ
彼女は、今夜零時に迎えに行くよと王子様に言われていました。しかし何でも覚えているのはナンセンスだと思ったので、忘れました。
睡眠薬を飲んでぐっすりと眠り、窓には鍵を。でもカーテンは開けたままにして、明かりも消しませんでした。だから王子様は、彼女が眠っているのを窓の外から見つけてがっかりしたのでした。
零時には、お城でパーティーが開かれていました。お姫様たちは煙草を吸って、ドレスでもおかまいなしに逆立ちをしたり、レコードを片っ端から割ったりしています。
「わたしたち、何もかも捨てたわ。」
そう言って、不敵な笑みを浮かべ髪をふり乱して踊り狂うお姫様たち。そのようすを、彼女の飼い猫は一晩中じっと見つめていました。 パーティが終わると猫は屋敷に戻り、ベッドで眠っている彼女の枕元にとび乗って丸くなりました。 そして、翌朝彼女が目覚める時にはもういなくなっていました。
朝食のテーブルで彼女は、夢で王子様と会ったことを思い出します。 ふたりで踊りながら、いつまでも笑顔でした。でも彼女は何かを忘れているようで、ずっと気がかりでした。
夢の中で彼女と向かい合って彼女の肩に手を添えている王子様が、口の動きだけで言います。
「忘れたままでいて。」
忘れているのは王子様の声なのか、飼い猫のことなのか、自分が犯した罪のことなのか、とうとう思い出せずに一晩中、彼女は踊っていました。