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フカヅメ

北生まれ、山羊座、梅くえない

のぞみとひかり

のぞみとひかりは双子の兄妹 よく似てる 間違えられることも多いから その時のぞみはひかりのふりを ひかりはのぞみのふりをする そう彼らは一瞬で 入れ替わることができるのだ のぞみはよく ベッドの上で目を瞑った瞬間に 自分がひかりになるような気がした…

痛い晩餐

この世でいちばん最悪な組み合わせは、金曜夜の居酒屋で灰皿に並んで乗っている、紅しょうがとばんそうこう。 うすくひらいた皮膚の隙間から、しみ出てくる血液と体液、見え隠れする肉片。あふれ出してくる食欲と性欲と睡眠欲。のみこんだ固いスペアリブ。げ…

どんな瞳をしていたの この箱の中から なにを見ていたの 嗅いだことない 洗剤の匂い 誰だか知らない ポスターの笑顔 どんな話をしたの 味付けが変わったね あなたはそう言うけれど 老いていく時間に 私たちは追いつけない 新しい風が入りこんでは 亡霊に道を…

元日

私が生まれて 昨日が去っていく その失望につけ込んで 新しさはやって来る それ以前とそれ以後を分かつ 決定的な今日 これこそすべてと思うものは 残らず流されていく のぞむものは何も無い だからもう明日は来ない 大量の折り込みチラシに 目を通すことだけ…

踊れ

彼女は、今夜零時に迎えに行くよと王子様に言われていました。しかし何でも覚えているのはナンセンスだと思ったので、忘れました。 睡眠薬を飲んでぐっすりと眠り、窓には鍵を。でもカーテンは開けたままにして、明かりも消しませんでした。だから王子様は、…

月とレモン

「月に行きたいと思う?」 レモンを手のひらでもてあそびながら、まゆみが言った。 「行きたくない。月に行ったら月が見られないし。」 ころころと揺れるまな板の上のレモンに、凛々しく研がれたナイフの先を切り入れながら、あゆみが答えた。すたん、と刃が…

その渦の中に ひきこまれそうになった瞬間こころとからだすべての力を いっぺんに使ってとび退くきみ いつでも渦はきみの手のひらで穏やかな冷たい景色のまま 泳ぎ方を知らないきみは 必死になって 誰かの泳ぎを盗もうとする 泳いでいる自分が 誰かに見られ…

俗世に焦がれる

走っても走っても海がぴったり横についてくる道のり。それは闘いの幕開けへと続くカウントダウン。江ノ電の窓からぼんやりと、きれいに晴れた空を見つめていられるのは今のうち。電車を降りて踏切を渡ったら最後、もう元の世界には戻れない。 その数分後、分…

X

裸でゆらゆらと波の中にいるまさに丸腰の状態で、壁一枚むこうからガガガッいうと乱暴な音がした。 思わずえっ、と声が出る。 未知なるXがやって来た。 その音はドリルのようだ。ギュインギュインとけたたましく、獣のように鳴いている。音はどんどん激しさ…

いなくなるだけ

大学受験が終わったらまりちゃんは、大好きなアイドルのDVDを観て、友達とディズニーランドへ行って、参考書をまるっきり燃やすと決めている。 塾の帰りにまりちゃんは、自分の住んでいるマンションの隣にあるスリーエフで、洋酒入りのチョコレート「Lammy」…

「お米には七人の神さま」教

流しに、ちょっと多くて残してしまった昨晩のご飯が、茶碗に入ったままで放置されている。 蛇口をひねればジャーと水が出る。とりあえず茶碗たぷたぷまで溜めよう。 これから渋谷にでも行って買い物、食事。カフェで読書するのもいい。 ガチャンとドアを閉め…

墓場

ある日、フチのギザギザがつるっつるになっている100円玉に出会った。 昭和47年生まれのそれだった。 若者たちがにょきにょき伸びだした80年代にイケイケの学生時代を過ごし、はたちやそこらで激動のバブルに生き、結婚し、暗い90年代に子供を産んで育てた10…

夜のジプシー

銀座の、カラオケ館の前で男と別れた。 深夜2時。 道路工事しているヘルメット姿の作業員が、こちらを見ていた。 エリコは男の立ち去る後ろ姿をしばらく見送った後に、くるりと反対方向に歩き出した。 メトロへと続く階段の入り口にはシャッターが降りていた…

それに触れた

一度だけ、遺書を見たことがある。 「ありがとう」という文字だけが、なんとなくポカンと浮かんでいた。私は、その人がありがとうと言うところをどうしても思い出せなかった。 「ありがとう」というその声を。 小学生のとき、学校から帰るとその人は玄関先の…